リトル・ミス・サンシャイン
2020年6月14日 ブログ
#ジョナサン・ディトン&ヴァレリー・ファリス監督
#ロードムービー
#ニューメキシコ州アルバカーキ
#ぼくの叔父さん

『叔父さんモノ』の映画に惹かれます。
中年の意味での「オジサン(例:ジャムおじさん)」ではなくて、親族としての「叔父さん」。
親の弟ぐらいの適度に年が離れたお兄さん的な『叔父さん』が思春期の子供たちの思い出に残るみたいな映画です。
古くは 1953年公開のジャック・タチ監督の「ぼくの叔父さんの休暇」。
サザエさんでいうところの“ノリスケ叔父さん”的な適当中年男が、この映画では無職で独身のユロ叔父さんがドジばかり踏むけど、パントマイムで謝ったりして、知らないうちに皆が彼に心を奪われる。

北杜夫先生の児童文学「ぼくのおじさん」も外せない作品です。
叔父(父の弟)は、主人公の家に居候していて、友達に自慢できることが一つもない。定職につかず、生活も恋愛も失敗続きだけど、 10歳の少年は束縛されない叔父の生き方に心が傾く。
この作品は、山下敦弘監督、松田龍平主演で 2016年に映画化され、秀逸なコメディーです。
でも、国民的叔父さん部門では、ノリスケは「助演叔父さん賞」で、車寅次郎(「男はつらいよ」、渥美清)が「最優秀主演叔父さん賞」になると思う。
何故、「叔父さん」に惹かれるのか?

伊丹十三さんが、 1981年に創刊した文芸誌「 Mon Oncle (モノンクル:フランス語で叔父さんの意味 )」で、「叔父さんというイメージ」をこのように書いている。
“少年である僕がいるとしますね。
少年は当然親の押し付けてくる価値観や物の考え方に閉じ込められている。
<中略>
そんなところに、ある日ふらっとやってきて親の価値観に風穴をあけてくれる存在、それが叔父さんです。
叔父さんは遊び人で、やや無責任な感じだけど、本を沢山読んでいて、若い僕の心を分かろうとしてくれて、僕と親が喧嘩したら必ず僕の側に立ってくれるだろうな、そういう存在です。
叔父さんと話した後は、なんだか世界が違ったふうに見えるようになっちゃったト。“
没後 23年、生きておられれば 87歳、伊丹十三の視線は色褪せない。
映画監督、俳優、エッセイスト、ギターリスト、商業デザイナー、料理人、さらに沢山の職業に就いた唯一無二の天才。
本を沢山読んで、若者の心を理解しようとする。その割には同世代の大人に対しては斜に構えて、距離を置く。
伊丹十三こそが、僕らにとっての「永遠の叔父さん」であります。
本日の映画紹介は、「リトル・ミス・サンシャイン( 2006年公開、ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督)」です。
ざっくりと言えば、「僕と叔父さん」のロードムービーです。
舞台は現代、ニューメキシコ州アルバカーキに住む家族6人がカリフォルニア州ロサンゼルスの「レドン・ビーチ」を目指して旅に出る。
仕事の悩み、生きることへの諦め、思春期の閉塞、家族それぞれが内面に問題を抱えている。
「祖父と娘」、「息子と叔父」の親子ほどの距離感ではない、二親等ぐらいの離れた関係性の会話の中で、自分語りを始める。
それぞれの本音とぎこちない家族の外観が見えてくる。
観客のこちら側は、「父親あるある」、「思春期あるある」みたいな目線で自分自身を投影して映画を俯瞰し、感情移入してしまう。

さて、家族6人は古ぼけた黄色のミニバス「フォルクスワーゲン・タイプ2」に乗って、砂漠地帯の荒れた国道を西へ、1 ,300kmを駆け抜ける。
何の目的で家族は、ロサンゼルスを目指すのか?
車で中西部から西海岸のロスまで、普通は飛行機でしょう?
普段は個人がバラバラの家族がなぜ、一緒に旅をするのか?
知りたいことは、だんだんと映画で明らかになります。

続きは、是非に本作をご覧ください。
脚本が素晴らしくて、僕には解説できる自信がありません。
事実、 2007年アカデミー賞で脚本賞(マイケル・アーント)を受賞しています。低予算映画ですが、サンダンス映画祭でプレミア上映され、 2000年代最高のコメディー映画に選ばれています。
最後に、おこがましいのですが、僕が気になるショットを少しだけ紹介させてください。
ストーリーには関係なく、ネタバレしません。
<その1:エンジンの押しがけ>
フォルクスワーゲン「
Transporterのタイプ2」は、空冷式の水平対向4気筒エンジンで軽い抜けるような「パン・パッ・パッ・パン、パン、パン」の内燃の響きが良いですよね。
1200ccのわりに車体が重く、初動でバッテリーが上がりやい。
僕もエンジンの押しがけを手伝った記憶があります。
クラッチを切って、一気加勢に車を押す、エンジンがかかってから、クラッチを繋ぐまで何度も失敗して、押す僕らは大汗をかきます。
1200ccのわりに車体が重く、初動でバッテリーが上がりやい。
僕もエンジンの押しがけを手伝った記憶があります。
クラッチを切って、一気加勢に車を押す、エンジンがかかってから、クラッチを繋ぐまで何度も失敗して、押す僕らは大汗をかきます。

<その2:『1984年』のビッグ・ブラザーのTシャツ>
15歳の長男のドゥエーン(ポール・ダノ)は、哲学者:フリードリヒ・ニーチェを敬愛しており、読書オタクである。
映画冒頭にちらっと映る、彼の部屋の本棚がとても興味深い。
着用しているTシャツは、ジョージ・オーエルの小説「1984年」に登場する架空の人物「ビッグ・ブラザー」のイラスト。
「BIG BROTHER IS WATCHING YOU」のプロパガンダ・ポスターを模倣したTシャツ。このTシャツは激レアであり、ネットオークションでも手に入りにくい(僕も欲しい)。
それも、人物画の額の星印はドゥエーンが付け足したと思われる。
何のメタファーなのだろうか?

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。